「ぐ、ああぁ…っ」
「どうしました?始めの威勢は。食って掛かってきた時のあの表情、とても素敵でしたのに」

まわるは地面に平伏した相手をブーツで踏みつけながら言う。 踏まれた相手の意識は与えられる痛みによって無理やり起こされているようだ。
実際、目はもう虚ろである。

「私は別に苦しむ表情が好きなわけじゃないんですよ?せっかく退屈凌ぎになると思って相手しましたのに…」
「ぐっ…うっ!」

そう言ってさらに足に力をこめる。彼を助けてくれるものなど誰もいなかった。 連れていた召喚獣はさらに遠くのほうで倒れており、ぴくりとも動かず起き上がる様子はない。
まわるはつまらなそうに武器を取り出すと魔力を込め、形状を剣へと変えた。

「まぁ、時間は潰せましたのでせめてもの御礼です。ゆっくり眠っていてくださいね」
にっこりと相手に刃を向けそのまま勢いよく振り下ろす。ひゅっと音を立て、刃は胸元へと刺さった。 相手は完全に意識を失ったようだ。まわるはゆっくりと剣を上げ、見せびらかすようにして後ろへ振り向いた。

「これでパス、ゲットですね」

まわるの振り向いたほうには一人の少女がいた。名前をライラと言う。
二つに結い、縦にロールされた紫色の長い髪。大きな蒼い瞳に細く白い肌。 しかし、その手には外見には似合わず大きな剣が握られていた。 瞳もその外見にしては鋭く光を放っている。 彼女はまわるの召喚獣だった。

「そうね、これで三つ目ね」

剣の先に刺さったパスを見て、ライラはため息をついた。
そんな風にパスを貫通させてしまっていたら意味がないのではないだろうか。 それよりもいくつもパスを持っているというのに他の主従を襲う意味はあるのだろうか。
今回のイベントでパスの略奪行為は違反のはずだ。 まわるはそういった行為を粛清の目から逃れるのが上手いらしく未だに見つかってはいないがそれも時間の問題な気がする。 宝探しのようなイベントだと知らされていたというのにまわるから奪うと聞かされたときは困惑したが今はそれ以上にライラは困惑していた。
もうすでにパスは見つかっているのにまわるは他の主従からパスを奪うことを止めない。 むしろパスの確保など二の次で実際は戦いによって暇を潰すことしか考えていないようだ。 パスを持っている相手を挑発して襲ったりもしているがわざとパスを持っていることを見せびらかし、 まだ確保できてない主従が幾度か襲ってきたりしてくるように仕向けたりもしている。 相手も焦っているのだろうイベント終了間近と言うこともあってその頻度は増えていた。

「ずいぶん退屈そうですね?ライラ」
「そんなことないわ」

ぎくりと体が硬直する。手をほどなく抜いていたことがばれていただろうか。
退屈なわけがない。むしろうんざりしていた。戦うことは嫌いではないが幾度も行われた戦闘でライラはすでに魔力を消耗しかけている。 しかし、まわるは供給する素振りは見せない。むしろその様子を楽しそうに見ている。 魔力がつきそうだからと言って弱音をはくのは嫌だったし、何より弱音をはいたところで優しくしてくれる人間でもない。 ライラはなんでもないように返事をした。
まわるはその様子にまたそうですかと笑ってライラに背を向けて歩き始めた。次の獲物でも探すつもりなんだろう。 カツン、カツンとブーツを鳴らしながら線路上を歩いていく。ライラはふらりと体を動かしてその後についていった。











イベントが行われているこの地下一階層"一の海"はずいぶんと幻想的な場所だった。 足元には線路。トンネル上の天井は透明になっており魚が泳いでいるのが見える。歩くたびに体に青い波が写り揺れる。 きらきらと綺麗だ。きっと普段何もないときに見れば心安らぐ場所だったであろう。
でも今はイベント中。人は皆殺気立っている。現にふいに現れた二人組みもそうだった。

「げっ!」
「おや、ブーケさんじゃないですか」

目の前に男女二人が立っていた。
男は緑色の長い髪にマント、左目に大きな眼帯をしているのが目立つ。 まわるとは知り合いのようで会ったことを心底嫌そうにして顔顰めていた。
女は緋色の髪で前髪が銀色になっている。すらりとした長い手足をくみ、くつくつと楽しそうに笑いながら前に歩み出た。

「ブーケ、お前の知り合いだったのですか?」
「違うよ。知り合いじゃないよ。知り合いでありたくないよ、あんな奴」
「ひどいですね。この間、あんなに遊んであげたじゃないですか」
「違うだろ!あれは遊んだって言うか遊ばれた…あれ?あってんのか?」
「合ってるじゃないですか」
「お前は何を言っているのですか?」
「なんなのこの会話…」

和んでいるのかそうでないのかわからない空気が流れる。
それを切るかように女は武器を取り出して構えた。

「ブーケが世話になってるようですね。私の名はアリアドナ。以後よろしくお願いします」
「ご丁寧に。私はまわると申します。こっちはライラ、私の召喚獣です」
「世話になった覚え一切ないんだけど…」
「それで御用はなんですか?」

さらりと言葉を遮られ、ブーケはまたまわるを睨みつけた。
睨まれた本人はまったく気にしていない。

「いえ、お前達が先ほどパスをゲットしたのを見てそれを頂こうと思って来たのですよ」
「え?パスを見つけたってそういうことだったのか」
「持ってる人間から奪ったほうが早いでしょう。お前に従ってパスを地道に探すなんてするから無駄に時間をくいました」
「はぁ〜〜〜。まぁ、時間もないしなりふり構ってらないしな。しゃーねぇな…と!!!」

そういうや否やブーケはまわるとライラの足元に向けて鞭を撃った。 同じようにまわるも武器を鞭に変化させてそれを打ち返す。 その一瞬できた隙にアリアドナはライラに向かってトンファーを打ち付けた。 咄嗟にライラは大剣を盾にそれを塞ぐ。
それを一瞥し、まわるはすたすたと後方へと歩いていった。

「どうしましたか?そんなに離れて…お前は距離をとらないと戦うこともできないのですか?」

アリアドナは挑発しながらさらに力を込め大剣を押し返していく。

「ライラがずいぶんと退屈そうだったので譲って差し上げようと思いまして」
「え!?」

驚愕するライラを余所に十分に距離をとったまわるは振り向きながらにっこりと笑う。 本当に戦う気がないのか武器に魔力を送るのを止め、手にあるものは何の変哲もない棒になっていた。

「お前は私達二人相手にこの召喚獣だけで十分勝てると思っているのですか?」
「舐めてるの、あんた…」
「いえ、勝てるだなんて思ってませんよ」


「ただ私も退屈だったので。頑張ってくださいね、ライラ」

笑っているのに言葉は完全に突き放している。ライラはギリッと唇を噛んだ。 未だに魔力の供給もサポートも何もない。でも戦わなければいけない。 やんわりと言っていたがあれは確実に命令だった。
大剣を再度握り締めてトンファーを弾く。 アリアドナはそれに驚くことなく後ろへ飛んだ。

「なるほど、わかりました。それではお前を倒してから召喚士も倒すことにしましょう。二対一だからと言って、容赦はしませんよ!」

言い終わらないうちに再度アリアドナは地面を勢いよく蹴ってライラの懐に飛び込んできた。 再び大剣を盾にしようとしたがうまく動かない。ブーケが鞭を大剣に巻きつけていたのだ。

「くっ…!」
「胴体ががら空きですよ!!」
「…っ、ああああ!!!!」
「うわっ!」

力任せにライラは大剣を振った。絡まった鞭に引っ張られ、ブーケがそのまま天井に飛ばされる。 同時に攻撃される前にアリアドナの持っていたトンファーを手から弾いた。

「何をしているのですか、お前は」
「それはあんたのほうだろ!何一緒に武器弾かれてんだよ!ババア!」

飛ばされたブーケはそのまま天井を蹴って、空中で体制を整える。 くるりと回って鞭で弾かれたトンファーを掴み、アリアドナのほうに向かって投げた。 アリアドナはそれを受け取って体当たりをするかのようにライラへトンファーを打ち付ける。

「ぐ、きゃああ…っ!」

力任せに大剣を振ったため体制の取れてないライラの体は簡単に吹っ飛んだ。 地面に体を打ちつけ小さく唸る。飛ばされたときについたのか頬から血が流れた。 目の前がくらくらする。体を打ちつけただけではないもう魔力がなくなりかけているのだ。
しかし、相手は容赦する気がないらしくじりじりと近づいてくる。

「(起きないと…)」

体に力を込めるが大剣は手からするりと滑り落ちた。
目の前に立っているであろう相手も黒くぼやけている。

「(やられて…しまう……)」

その時、体に何かが巻きついた。そのままぐっと後ろに引っ張られる。 勢いよく引かれたためライラは息をつめた。止まったと思ったときには思い切り地面に尻餅をついていた。

「あ…」

体に力が戻ってくる。横を見るとまわるが立っており、先ほど体に巻きついた何かはまわるの鞭でそこから魔力が流れこんできているようだ。 やっと供給された魔力にライラはほっと息をはく。

「いつまで座ってるんですか。早く立ってください、ライラ」

巻きつけていた拘束を解き、まわるは鞭でぴしりと地面を叩いた。

「おや、お前もやっと戦う気になったのですか?」

アリアドナは妖艶に首を傾げる。ブーケはふんと鼻を鳴らし地面を打った。

「いいえ」

まわるの手の中の武器が光る。大量の魔力を注がれ、武器の形状は弓になった。

「逃げます!!!」

弓から棘が飛び交う。アリアドナとブーケの足元に放たれ、地面に刺さった棘は粉塵を巻き起こした。 相手の予想外の選択にアリアドナは舌打ちし、ブーケは慌てた。 その隙にまわるとライラは全力疾走する。

「お二方も逃げたほうがいいですよ。近くに生徒会の者が巡回しているようですから。  あ、そこに置いているパスは楽しませてくださったお礼です。それでは!」
















「さて、ここまで走れば大丈夫でしょう」

そういってまわるは足を止めた。さっきの場所からはだいぶ離れていて人の気配すらない。とても静かだ。 ライラも足を止め、汗を拭った。まわるはそうでもないがライラは戦っていたこともあり息が切れ切れだ。
頭に手が乗せられ撫でられる。一緒に魔力も注ぎ込まれてきた。

「楽しかったですか?」

にこにこと満足しているのかまわるはずいぶん上機嫌だ。 その様子にライラは曖昧にこくりと頷いた。なんだか機嫌をとるようで嫌だったがここで否定してまた機嫌を損ねるわけにはいかない。 表面上いつも笑っているので分かりづらいが機嫌が悪いと周りになにかがくるのだ。機嫌がいいことに越したことはない。
頭の上を何度も優しく撫でられる。目を瞑り、今は流れ込む魔力だけを感じる。そのときイベント終了のアナウンスがなった。







〜〜〜〜〜〜

人様のお子様を借りて、小説書くとか抜かした私のアホー!!!!!!!(泣)
純さん宅のライラさん、馨夜さん宅のアリアドナさん、榛軌さん宅のブーケさんお借りしました。
いやもうお待たせしてしまったわりにこんな小説で…すみません^p^私の表現力のなさに絶望した!
頭の中では勝手に動いてくれるのに難しいですね…しかし、妄想は楽しかったです!
ライラちゃん、可愛いな。アリアドナさん美人だな。ブーケくんかっこいいわうふふふふとか←
戦闘シーンの前にまわるとアリアドナさんの言葉による冷戦とかも考えてたんですが
下手に長くなった上、まわるが面白くないくらい流すのでばっさり切りました。
だってまわる怒らないんだもん。怒らないから無駄に口論だけ長くなっていく;

しかも勝手にイベント終わらせてますがすみません。うちの子はもっとこんな感じだよ!
もっとこう動かしたかったんだ!という苦情があれば全力で受け止めます!遠慮なくいってくださいね!
とりあえず…お借りさせていただきありがとうございました!!!!
そしてここまで読んでくださり、お粗末さまでした!今後もっと精進できるように頑張ります!

純さんがこの小説を元に漫画を描いて下さいました!ありがとうございます!! →頂いた漫画はこちら!






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