カフェ、ファッションショー、演劇一通り見て回った。
今日はシュトラル学園の文化祭に来ている。ライラはすっかりバテてしまったのかふらふらになりながらも着いてきていた。

(ああ…違うか……)

そういえば最後に魔力の補給をしたのはいつだっただろうか?近頃地下に行くのもご無沙汰だったしすっかり失念していた。 帰ったら補給でもするかとぼんやりとりんご飴を食べながら廊下を歩いているとふとあるポスターが目に入った。

『悪夢工房』

そこにはそう書かれている。ざっと流して読むとどうやら教室の中の椅子に座ると「一番怖いと思う化け物」が追ってくるらしい。 どういう原理化はわからないが非常に興味がそそられた。いい退屈しのぎになりそうだ。

「・・・興味があるなら行ってくれば?」

ライラが呆れたように言う。少し考えるふりをして持っていたりんご飴を渡した。

「では少し待っていてくださいね」

扉を開ける。少し暗かったが迷わず椅子の元までたどり着けた。 躊躇わず座るとふっと眠気が襲ってきた。逆らわずそれに身をゆだねる。
次に目を開けるとどこかの洋館にいた。部屋の壁もドアも雰囲気も先ほどまでいた教室とはまるで違う。

(幻覚か・・・なにかですかね・・・?)

そう考えるとちょっと嫌な予感がした。そういえば「一番怖いと思う化け物」が追ってくると書いていなかったか。 心を読み取られているのかわからないが怖いものというか苦手なものがくるとすれば…。 背後でぐちょりと何かが動いたような生々しい音がした。後ろを振り返ることもせず全力で部屋を飛び出す。 ああ、嫌だ。予想通り「一番怖いと思う化け物」だとすればあれが…。 考えるだけでぞくっとした。振り向きたくない。絶対見たくない!

廊下、階段…とりあえず屋敷中を駆け巡った。しかし、あれは着かず離れず追っかけてくる。 キリが無い気がした。窓の外を見ると夜明けまではまだ遠い。 広間まで出て足を止める。いい加減逃げ回るのも疲れてきたし飽きてきた。意を決して振り返る。

「・・・・・っ!!!!」

目の前にいるものを見上げると全長3mほどの巨大な蛸がいた。 ぬるりと太い八本の腕が屋敷の柱や階段の手すりに絡まっている。 あたりには磯の匂いが充満している気がして眩暈がした。

「ふ・・ふふっ、ずいぶん大きいですね・・・まだ普通のサイズであれば可愛げがあったものの・・・」

可愛いなんて普通のサイズでも思ったこと無いが。鳥肌がさっきから引かない。 何故見るのも嫌いなものがわざわざこんな巨大なサイズで現れるのか。 やる気は失せているがどうにかしないといつまでも追いかけてくる。 武器を取り出して魔力を注ぐ。注がれた武器は剣に形を変えた。 襲い掛かってきた足を剣で振り払う。簡単に切られた足は吹っ飛んで壁ぶつかった。

「寄らないでください触れないでください。その立派な足を全て切り落とされたくなかったらね」

剣を相手に向けて睨みつける。正直こんな余裕のない戦いは久しぶりかもしれない。 残念ながら楽しさは微塵も感じないが。

蛸がぐにゃりと動く。残りの七本の足をいっせいに叩きつけてきた。 それをジャンプで交わす。

(あ、着地…)

床が蛸の足で埋め尽くされている。やばい、このままではあの中に落ちてしまう。 それだけは絶対避けたい。

(剣を…いや、武器の形状を鞭に変えて柱に…)

ぐるぐると思考を巡らせるが冷静さを失っているのかいい案が浮かばない。 大体柱にも蛸の足が撒きついているのだ。どちらにしろ落ちるのと一緒だ。
考えるのに必死になりすぎたのか横から足が向かってきているのに気づかなかった。 咄嗟に剣を盾にするが簡単に吹っ飛ばされ壁に叩きつけられる。

「か、・・・はっ!」

ずるりと壁にもたれかかる。すごい威力だ。まともに食らったらタダでは済みそうにない。 休む暇もなく足が襲い掛かってくる。剣を杖にしてふらつく足を無理やり動かしそれを避けた。

(や…はりここは逃げたほうが無難かもしれませんね……)

思考も身体も動かないのであれば逃げるべきだ。横目で経路を確認する。 階段には蛸の足、廊下は身体で塞がれている。あとは…

(あそこの部屋だ!)

蛸の攻撃をすり抜け、ドアを開けて部屋へと転がり込む。 鍵をかけてずるずると座り込んだ。

「退屈しのぎにはいいかもしれませんが…この退屈しのぎは二度とごめんですね」

腕を触るとざらざらとした感触がした。当分鳥肌は引きそうにない。
ため息をつき落ち着いてあたりを見回すと飛び込んだ部屋はどうやら物置のようでとても暗い。 うっすらと小さな窓から入り込んだ光が床を照らしている程度だ。










『回』

不意に呼ばれた声に凍りつく。声のほうに振り替えればそこには一人の男性が立っていた。 年は二十歳くらいだろうか顔はよく見えないが自分より若く感じる。

(誰だ…?)

男に見覚えはない。なのに彼は随分親しそうに自分を呼ぶ。

『回』

もう一度呼ばれた名前に完全に動けなくなった。まるで体中が見えない何かに拘束されているようなそんな気分になる。 手には汗が滲み、額からも流れ落ちてくる。カタカタと増える体は自分では止められそうにはない。 誰だ。覚えはないはずなのに身体が勝手に反応する。

『回は俺が怖いの…?』

寂しそうに彼がつぶやく。その声に無意識にゆっくりと頭を横に振った。

(怖いなんて…)

怖いなんて思ったことはない。そう否定しなければと頭の中の何かが言っている。 言葉にしようとしているのにうまく声が出ない。

「怖……な…………て」

怖いなんて思ったことはない。喉がカラカラに乾いていくのがわかる。まるで元から声が出なかったような。 潰れてしまっているようなそんな感覚に陥る。体中を流れる汗が冷や汗なのか脂汗なのかわかない。 だけどその気持ち悪さよりも強くなにかが湧き上がってくる。

『回』

その手を掴まなければ。怖くないって伝えなくちゃ。 なのに身体は勝手に後ろに下がる。

『回』

もう一度ゆっくりと首を振る。違う、違う、違う違う違うちがう。
どこかから聴こえる電車の音が耳についた。















勢いよく教室のドアを開ける。音に驚いたライラがこちらを見た。

「帰りますよ、ライラ」

視線を合わせず、背を向ける。慌ててライラが着いてきたが歩調を緩める気はない。 早くここから離れなければ。これ以上あそこにいれば余計なものを思い出してしまう気がする。 あんな男知らない。見たこともない。なのに纏わりつく恐怖が全身を襲う。 忌々しい感覚に小さく舌打ちをした。





開けっ放しのドアがゆっくりと後ろで閉まっていったのを気にする余裕はなかった。









〜〜〜〜〜

主従を組ませていただいているライラさん(純さん宅)、シュトラル学園:悪夢工房様(Kiruさん宅)をお借りして書かせていただきました。
好奇心は猫をも殺す。現実世界での一部の記憶がないため見事に余計なものを見ております。 簡単に説明しますとでてきた男はまわるが自分が拒否してしまったため自殺してしまったと思ってる幼馴染です。一番大切な人間でした。 (詳しくはこちらの過去小説から(BL、暗い、微エロ?、死ネタ注意です)) 悪夢工房さんは自分自身が覚えてないことですら悪夢で見せてしまうのではないかなと勝手に妄想^−^ 悪夢ネタおいしいです!!!お借りさせていただきありがとうございました!

これでちょっとは大人しくなればいいのに^p^

追記!!!
Kiruさんがイラストを描いてくださいました!!!素敵な絵はこちらから!
蛸のぬるぬる感半端ないwwwこれまわるじゃなくても嫌ですwwwこんな絵を短時間で書き上げるKiruさんも半端ない…(ザワッ)
Kiruさんありがとうございました!!!!






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