「もう御終いですか?」

「…っ、この!」

「おっと」

地面の膝をつける相手にそういえば相手は無理やり体を起こし武器をこちらに向けてきた。 力が入っていないので難なくかわせる。相手も武器にすがるようにまた地面に膝をつけた。 だが睨んでくる目つきは変わらない。その様子に思わずうっとりと笑みを浮かべる。 ゾクゾクと背中からせり上がってくる感情が楽しくて仕方がない。 何故だかわからないが彼は相当自分を恨んでいるらしい。










舞踏会場で知らされた第二階層でのゲーム。氷窟のこの場所で戦闘により鍵を奪い合っていく。 なんて自分向きのイベントだろう。前回のイベントは戦闘禁止で生ぬるくて仕方なかった(とはいっても監視の目を掻い潜って違反しまくったが) ライラをつれて足取りも軽く次々と鍵を奪っていく。鍵はすぐに4つ集まった。
あと1つ…5つ目の相手を探しているといきなり誰かに殴りかかられた。突然のことだったので思わずよろめいてしまう。 相手のほうを見ると興奮するように肩で息をし、すごい形相でこちらを睨んでいる少年がいた。 後ろからは召喚獣だろうか?「茘枝!?」と呼びながら少女が慌ててこちらへ走ってきている。

「回…こんなところで会うとはな…」

ぎりぎりと握り閉めている拳は爪が食い込み今にも血がにじみ出てきそうだ。

(誰だ…?)

オレンジ色の髪、ぱっちりとした大きな目。性別はどちらともつかないがなんとなく彼は少年だと思った。 しかし、話したことはおろか会った覚えすらない。相手はこちらのことを知っているようだが…。
思い出そうと首をひねってみたが尽かさず攻撃を入れられる。振るわれた扇から勢いよく炎が飛び出した。 私とライラはそれを後ろへ飛ぶことで避ける。

(炎を操るのか…不利ですね)

そう思ったが彼は理性を失ってるらしい。攻撃もおろそかに召喚獣のサポートも受けず叫びながら仕掛けてくる。

我をゴミのように―――

現実世界では―――

よくも――

よくも―

よくも!!!!

ああそうか。・・あっちの知り合いか。
口元を歪めて、武器に魔力を込め剣に変える。『まもる』を発動することによってあたりに弾け飛んだ炎の中を突っ切るように相手の懐に飛び込んでいった。










少し苦戦してしまったが理性を失ってる相手を平伏せさせることなど造作ない。 彼の額からは血が流れ、服もすっかりぼろぼろになっている。 私自身もわき腹からぼとりぼとりと血が流れ出ていただが気にはならなかった。むしろこれも彼の憎悪の形だと思うとすこぶる心地いい。

「あなたと私は現実世界で知り合いだったようですね。しかし、申し訳ございません。私はあなたのことは覚えがありませんよ」

にっこりと笑いながら、挑発するようにゆっくりと言う。
記憶がないのは本当だった。誰にも言ったことはないが私には現実世界の記憶はない。 正しく言えば一部の記憶がなく、幼いころに両親を火事で亡くしたのは覚えているのだがそこから後は実に曖昧だ。 どういう生活を送っていたか。思い出してみようとしてもほとんどが靄がかかったようになっている。

「ああ・・・でも・・・・」

脳裏で砂嵐がなる。ぼんやりと地面にぼろぼろになって倒れてる男の姿が見える。
少年に近づいて足を振り上げ思いっきり溝を蹴り飛ばした。力の入ってない少年は簡単に飛び体は地面にこすり付けられた。 一緒に飛び散った血は透明な氷を赤く汚すだけだ。

「こうやって蹴り飛ばしてた気がします」

少年はぐっ…と呻き声をあげてその場にうずくまった。そうとう効いたのだろう、視点があっていない。
ふらりと標的を変える。少年傍で動けなくなっている少女に近づいた。 彼女も目は空ろでうなだれている。しかし、彼女の場合は負傷によるものではなく魔力の供給もまま一気に力を放出したせいだ。 暴れる召喚士に向ける攻撃を片っ端から邪魔してくれた。随分仲がいいようで。
剣の刃で彼女の顎を持ち上げる。抵抗はないのでどうしようとも簡単だ。 それを見た彼の顔がみるみる青白くなっていく。見開かれた目と口と。

「か、鍵なら渡す!降参、降参するから・・・!」

だからそいつには手を出すな・・・っ

言葉は望んだものではなくてがっかりした。怯えが見える。すっかり戦意を喪失してしまってるらしい。怒ると思ったのにつまらない。

「ライラ、鍵を」

後ろで控えていたライラに指示出す。彼女は私を一瞥しただけで表情も変えず少年の懐に手をのばした。 彼女も随分つまらなくなった。使いやすいことに越したことはないがそれじゃあ退屈しのぎはできない。

(まぁ、今はいいか)

今はこっちだ。
きらりと鍵がライラの手の中で光ったことを確認して武器を収めた。 倒れてる少年の覗き込むようにして立つ。

「それでは鍵はありがたくいただいていきますね。とても楽しかったのでせいぜい頑張って勝ち上がってきてくださいね。茘枝さん?」

盛大にあざ笑いながらその場を去る。 また遊べる日がくるのとても楽しみだ。次にはもっと盛大な憎悪をぶつけてくれることだろう。 真っ赤な道を作りながら狂喜とふわふわとした感覚を連れて出口へと向かった。











〜〜〜〜〜

ライラさん(純さん宅)、茘枝さん(ヒスイさん宅)、ソナさん(ナマさん宅)のお子さんをお借りして二の氷窟イベントのSSを書かせていただきました!
まっことに申し訳ございません!!!!!まわるが相変わらず最低で申し訳ございません!!!!!最低の上に変態で申し訳ございません!!!!!! 許可いただいているものとは言え泣きたい…ふるぼっこ泣きたい;〜;
でも現実世界絡みおいしいです…茘枝さんとまわるは知り合いでしたというだけのことを書きたかった今回のSS。 果たしてこっから和解に持っていけるのか…すこぶる自信ない。まわるがよくても茘枝さんが許してくれる気がしないすごく;これで許したら…マジ天使じゃん? いじめっこといじめられっこの関係は難しいですね!でも茘枝さんにはトラウマなく幸せになってほしいのでない脳みそフル活動させて考えるのです!和解の方法を! とりあえずまわる気が済むまで殴ればいいと思います!

それではここまで読んでくださりありがとうございました!






Back << イベント >> Next